コラム

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2017年9月11日 動脈硬化を進めるもう一つの黒幕「LDL(悪玉)コレステロール」とは

コラム「血管を狭め、詰まらせる動脈硬化のおそろしさ」で、プラークと呼ばれる血管壁にできた瘤(こぶ)は、LDLコレステロールが引き金になってつくられると述べました。

そもそもコレステロール自体は、細胞膜やホルモン生成に必要な物質であり、動物にとってなくてはならないものです。しかし過剰になると、血管壁にたまるなどして、身体に不利益をもたらします。 

善玉コレステロールと悪玉コレステロールの役割

コレステロールはよく知られているように、大きく分けて、HDL(善玉)コレステロールと、LDL(悪玉)コレステロールの2つがあります。

HDL、LDLとも、コレステロールを運ぶ「トロッコ」のようなものです。HDLは、血管内に過剰にたまったコレステロールを回収して、肝臓に運ぶ役割をもっています。肝臓に運ばれたコレステロールは代謝され、体外へ排出されます。

これに対しLDLは、HDLとは逆に、肝臓からコレステロールを持ち出し、全身に運ぶ役割をもっています。しかし、運ばれたコレステロールは身体の各所で細胞膜などの原料となりますので、これだけ見れば、悪玉とはいえません。

つまり、HDLというトロッコに乗ったHDLコレステロールと、LDLというトロッコに乗ったLDLコレステロールの量のバランスがとれていれば、問題は起こらないのです。コレステロールは必要なところで必要なだけ使われ、余剰分はスムーズに肝臓から排出されるので、血管内にたまってしまうことはないからです。

悪玉コレステロールと動脈硬化の関係

ところが、LDLコレステロールが過剰になってしまうと、HDLがせっせと血管からコレステロールを回収しても追い付かず、どんどん肝臓からコレステロールが全身に運ばれてしまうので、余剰分がたまっていってしまいます。血液にも多く含まれるようになりますので、血管壁に蓄積されやすくなり、動脈硬化の原因となってしまうのです。これを「高LDLコレステロール血症」といい、メタボリックシンドロームとは別に、動脈硬化の独立した危険因子となります。メタボリックシンドロームと高LDLコレステロール血症が合併すると、動脈硬化のリスクが極めて高くなるといえます。

「メタボリックシンドロームと動脈硬化の関係」のコラムで挙げた”メタボリックシンドロームの診断基準”の中には、LDLレステロールの値は入っていません。
先ほど、メタボリックシンドロームと高LDLコレステロール血症は別の独立した危険因子と説明しましたが、最近では内臓脂肪型肥満になると、LDLコレステロールは変性し、小さく密度の高い粒子になりやすく、血管壁に容易に入り込んでしまうので、より動脈硬化のリスクを高めてしまうといわれています。女性は、LDLが高くてもあまり心臓の事故を起こさないと言われていますが、女性は内臓肥満が少なく、変性したLDLコレステロールは少ないのかもしれません。

厳密にいえば、動脈硬化の原因となるのは、LDLコレステロールのすべてではなく、このように変性して血管壁にたまりやすい性質をもった異常なLDLコレステロール(酸化LDLとも呼ばれる)の仕業と考えられています。

しかし今のところ、その異常なコレステロールのみに効く薬がないため、医療の場ではLDLコレステロール全体の値を下げる薬が使われています。実際に、LDLコレステロール値を低下させることで、狭心症や心筋梗塞などの、動脈硬化を背景とする疾患が減少することも確認されています。

「卵はコレステロール値が高い」は本当か?

卵や鶏レバーなどの、コレステロールを多く含む食品を摂ると、コレステロール値が上がると思っている人が多いかと思いますが、食品から直接取り込まれるコレステロールの量はそう多くはないことがわかってきています。厚生労働省は2015年4月改訂の「食事摂取基準」でコレステロールの基準を撤廃し、日本動脈硬化学会も同年5月に「食事で体内のコレステロール値は大きく変わらない」との声明を発表しています。

コレステロールは肝臓でも合成されますが、その際に材料となる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸といった脂質を含む食品の摂りすぎに注意すべきと、昨今ではいわれています。ちなみに、これらを含むおもな食品には、肉の脂身、菓子パンやクッキー、スナック菓子に使われることの多いマーガリンやショートニングなどがあります。
食事の際には、気をつけるようにしましょう。