コラム
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2017年9月9日 血管を狭め、詰まらせる動脈硬化のおそろしさ
心臓を弱らせるもっとも大きな要因は、血管の劣化すなわち「動脈硬化」です。
動脈硬化という言葉自体は雑誌やテレビなどのメディアによく登場するものの、どうして硬くなってしまうのか、硬くなると何が悪いのかは、あまりよく知られていません。
また、動脈硬化は、すでに硬くなってしまった動脈硬化(石灰化)より「やわらかい動脈硬化」のほうが、実はリスクが高いことは知られていません。
動脈は、心臓から送り出された血液を全身に運ぶための血管です。
心臓から続く大動脈に始まり、枝分かれしながら徐々に細くなり、最後は細動脈と呼ばれる髪の毛ほどの細い血管になります。
健康な人の動脈は弾力がありやわらかく、血管の内側も滑らかで血液はスムーズに流れています。
しかし後に述べる内臓脂肪型肥満や、それにともなう生活習慣病などがあると、この動脈が劣化しやすくなります。
例えば、動脈の壁が硬くなったり、内側に脂質の塊がこびりついて狭くなったり、あるいはその両方が起こったり、などです。
この状態を「動脈硬化」といいます。
動脈硬化は突然死につながる
動脈硬化によって血管に強い狭窄が生じると、血液を十分に送り届けることが困難になります。
必要な場所に血液が届かなければ、その場所は機能が低下したり、壊死したりしてしまいます。
心臓や脳をめぐる血管が詰まれば、突然死にもつながります。
動脈を輪切りにすると、血管の壁=血管壁は外側から外膜、中膜、内膜の3層になっています。
そして内膜の表面は内皮細胞で覆われています。
動脈硬化はその部位や起こり方によって、次の3つのタイプに分けられます。
細動脈硬化
細動脈硬化は、血管の3つの層全体がもろくなる動脈硬化です。
脳や腎臓の動脈の末梢や、目などのごく細い動脈に発生しやすく、血管が破裂して出血することもあります。
高血圧や、長期の糖尿病により起こりやすいとされています。
中膜硬化(メンケベルグ型動脈硬化)
中膜は、平滑筋細胞と呼ばれる細胞から成り、3つの層の中でもいちばん厚く、弾力があり、強い血圧にも耐えられるようになっています。
中膜硬化とは、この中膜にカルシウムが染み込んでたまることで起こる動脈硬化です。
喫煙やストレス、高血圧、腎不全などによりカルシウムの代謝異常が起こり、血液中のカルシウムが石灰化して血管に付着するのです。
それにより血管は硬くもろくなり、血管壁が破れてしまうこともあります。
大動脈や下肢の動脈、頸部の動脈に起こりやすいとされています。
アテローム(粥状:じゅくじょう )硬化
大動脈や脳動脈、心臓に血液を供給する冠動脈など、太い動脈に起こります。
動脈の内膜にLDL(悪玉)コレステロールなどの脂質がドロドロの粥状になってたまり、血管壁が厚く硬くなるため、血管の内腔(血液の通り道)が次第に狭くなります。
これら3つの動脈硬化の中でも、もっとも注意すべきは「アテローム硬化」です。
心疾患や脳卒中をはじめとする脳血管疾患の多くが、このタイプの動脈硬化を要因として起こっているからです。
アテローム硬化の起こり方をもう少し詳しく説明します。
血管の内膜の表面は内皮細胞で覆われていると先述しました。
これは、たとえるならトンネルの内壁にツルツルのタイルを敷き詰め、水などが中に入っていかないようにしている状態で、血管においては内皮細胞がこうしたバリアの役割を果たし、不要なものが血管壁に染み入っていかないようにしているのです。
また内皮細胞が張っているかぎり、血栓はできません。
ところが、何かの原因でこの内皮細胞に傷がつくと、敷き詰めたタイルがはがれてしまうかのようになり、バリア機能が低下します。
するとそこから、血管壁の内側へLDL(悪玉)コレステロールが入り込みます。
血管壁にとっては異物が侵入してきたというわけです。
すると、これを退治しようと白血球の一種で、外敵を退治する免疫細胞の一つであるマクロファージ(貪食細胞)が動員されます。
マクロファージはコレステロールを食べることによって退治した後、泡沫(ほうまつ)細胞という太った細胞になり、血管壁に「瘤(こぶ)」をつくるようにたまります。
これをプラークといい、血管を狭めたり詰まらせたりするもとになります。
プラークは粥腫(じゅくしゅ)とも呼ばれ、文字通りお粥のようにドロドロし、崩れやすい特徴があります。
このプラークに傷がつくと、傷ついた部分を修復するために、血小板が一気に集まってきて付着し、血液を凝固させます。プラークが破れて急激に生じる詰まりを、その程度によって不安定狭心症(詰まってはいないが詰まりかけている状態)や急性心筋梗塞(詰まってしまった状態)といい、突然死の原因となるのです。
アテローム硬化は、心臓に栄養や酸素を送る冠動脈という太い動脈や、脳の動脈などの主要な臓器の動脈に起こります。
動脈硬化そのものには自覚症状がありません。
しかし、放置していると静かに病状は進行し、心臓を弱らせていきます。
いつ、突然死に至るかもわからない爆弾を抱えているようなものなのです。