コラム

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2018年2月3日 大動脈の病気―大動脈瘤(りゅう)破裂、大動脈解離

大動脈は、心臓から押し出された血液が全身に運ばれる際に、必ず通る血管です。身体の中で、もっとも重要な血管の一つといえます。国内の主要な高速道路を、もののたとえで「日本の大動脈」と表現することがあります。もし事故や災害で、こうした道路が遮断されると、人の流れも物流も滞り、都市の機能麻痺にもつながりかねません。このようなたとえからも、人体の大動脈がいかに大事な役割を担っているかがわかると思います。

大動脈はもちろん、心臓と密接な関係があります。もし大動脈がなんらかの要因で損傷すると、突然死も含め非常に深刻な事態となります。代表的な病気を解説します。

大動脈瘤(りゅう)破裂

大動脈は、たとえるなら木の幹のように身体の中心を、胸部から腹部にかけて走っている動脈です。心臓からまず首に向かって出て(上行大動脈)、弓のような形で曲がり(弓部大動脈)、胸部の左後ろから腹部までまっすぐに走り(下行大動脈、腹部大動脈)、下腹部で左右に分かれます。このようにいくつかの部位に分けることができますが、いずれも太さは直径2?3センチあり、身体の中でもっとも太い血管です。

「大動脈の部位」

この大動脈の壁の一部がふくらみ、瘤のようになってしまう病気を大動脈瘤」といいます。瘤の形とでき方によって、真性、仮性、解離性と大きく3つのタイプに分けられます。

「大動脈瘤の3つのタイプ」
大動脈瘤ができるおもな要因として、動脈硬化や高血圧、先天的な組織の異常(マルファン症候群や二尖弁など)が挙げられます。感染や外傷で起こる場合もあります。

大動脈瘤自体は、破裂しなければ命の危険はありませんが、ひとたび破裂すると、大出血を起こし高い確率で死に至ります。たとえ命が助かっても、重い後遺症が残る場合も少なくありません。特に、胸部や腹部にできる動脈瘤は、破裂すると致命的になる危険性が高いとされています。

 

大動脈瘤の大きさとリスクの関係

胸部大動脈瘤の場合、目安として直径4センチ以下では年間に破裂するリスクはほぼゼロですが、4センチを超えると大きくなるに従いリスクは高まり、6センチ以上になると1~2割は1年間のうちに破裂する恐れありとみなされます。比較的大きな瘤ができやすい腹部大動脈瘤では、直径8センチを超えると年間の破裂リスクは3~5割とかなり高くなります。

瘤の大きさは、何年経ってもほとんど変わらないこともあれば、急にふくらむこともあり、ケースバイケースです。健康診断で胸部X線や腹部CT検査を受けた際、発見されることが多いのですが、自覚症状に乏しいため、まったく動脈瘤の存在に気づかず健康なつもりでいたら、ある日突然死してしまったということも決して珍しくありません。

首に近い部分に動脈瘤があると、胸痛や声のかすれ、食べ物が飲み込みにくいといった症状があらわれることもあります。また胸部や腹部では、瘤のあるあたりが脈打っているのを自覚する人もいます。

こうした異常を感じたら、すぐ血管外科や、循環器科を受診しましょう。

 

大動脈解離

先の図で示した大動脈瘤のタイプのうち、解離性大動脈では、瘤があまりふくらんでいない段階でも突然血管が裂けて大出血を起こし、前ぶれもなく命が奪われることもある、こわい病気です。背中の強い痛みがある場合があり、整形外科で痛み止めを処方されて終わり、というケースも珍しくありません。特徴には「痛みが移動する」「血圧に左右さがある」ということが挙げられます。

大動脈の壁は外膜、中膜、内膜の3層の膜によって構成されています。そのうちもっとも内側にある内膜が裂けると、その外側の中膜にも亀裂が入り血液が流れ込みます。時間が経てば瘤状にふくらみますが、ふくらまないうちに血管のもっとも外側にある薄い外膜が破れてしまうと、大出血を起こし、手の施しようがなくなることもあります。

大動脈解離を起こすと、突然激痛が走り、その痛みが乖離した部分に一致して一気に広がっていきます。激痛が起こったらすぐ救急車を呼び、生命の危険を脅かす場合は、一刻も早く手術を受ける必要があります。