コラム

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2017年9月3日 突然死の予兆(1)胸痛

突然死は「予期しない病死」ではありますが、実は「予告」として、前々からちょっとした身体の変調があらわれていることも多くあります。私は医師として20年以上にわたり、突然死の症例を数多く見てきましたが、もっと早く異変に気づいて受診していただいていれば助かったかもしれないというケースはたくさんあります。

ただし、突然死の予告とはいえ、今まで経験したことがないようなただならぬ症状を呈するとは限りません。もし、その症状がかつて経験したことのないような症状であれば、予告から実際死に至るまで、残された時間がほとんどない場合もあるでしょう。

むしろ予告としてあらわれる症状の多くは「少し息苦しいな」とか「胸が詰まる感じ」などの日ごろから何となく経験していてもおかしくない、ありふれた不調といえます。そのため、突然死で命を落とした人の家族や周囲の人々は、往々にして、そのちょっとした異変がまさか突然死を予告するものだなんて、思いもよらなかったと口をそろえるのです。症状の出方も、数年前からだったり、ここ1~2カ月だったり、とばらつきがあります。気づいていても、もう少しひどくなったら病院へ行こう、などと様子見を決め込んでいたところ、突然死してしまったというケースもあります。
大切なのは「年のせい」「最近疲れているから、休めば治る」などと自己判断しないことです。後述のように、もちろん異変があっても本当に一時的で、病的な原因がないことはたくさんありますし、むしろそのほうが圧倒的に多いといえます。しかし、だからといって、「自分は大丈夫。まさか突然死するわけがない」という保証はどこにもありません。

代表的な「突然死の予告となりうる症状」を挙げますので、気になるものはないかチェックしてみましょう。

弱った心臓が出すSOSとは?

心臓になんらかの異常が起こっているとき、よく見られる症状は以下の通りです。

・胸痛 (きょうつう)

・息切れ、呼吸困難、喘鳴(ぜんめい)

・動悸、不整脈

・むくみ

・その他(関連痛)

本記事では、胸痛について解説しましょう。

胸痛の症状

胸痛は、心臓の病気の前ぶれとしてよく知られている症状の一つです。

文字通り、胸部に感じる強い痛みを指しますが、感じ方には個人差があり、「刺すような鋭い痛み」と言う人もいれば、「息が詰まるような圧迫感」を訴える人もいます。中には「心臓をわしづかみにされたよう」と表現されることもあります。

ただし、「ここだけが痛い」と指一本で指し示されるような痛みや、息を吸うときだけ、あるいは吐くときだけ痛くなるといった場合は、心臓の病気の可能性は低いといえます。例えば指先など、皮膚の浅いところの怪我であれば、痛みの感覚はその場所に限定的に起こりますが、異常が起こっている場所が身体の深部であるほど、痛みは広範囲に感じられるものです。そういう意味で、あまり場所が限定される痛みは心臓からきているものではない可能性が高いのです。もし胸が広範囲にわたって痛かったり、圧迫感があったりしたうえで、特に脂汗を自覚するような場合は、心臓病の疑いが強まります。

なお、必ずしも「左側」にこだわる必要はありません。そもそも心臓は左右の胸の中央に位置しています。拍動するときに左へ動くため、心臓が左にあるように思えるのですが、心臓の病気では胸痛は左右に関係なく起こります。

痛みの持続時間は、致命的な大発作でなければ、数分?数時間でおさまることが多く、喉元過ぎれば……で放っておいてしまう人が多いのも現状です。

胸痛は少し息切れする程度の動作をしたときに起こりやすくなります。しかし、高齢になればなるほど、「年のせいかも」と見過ごしてしまう傾向にあります。加齢とともに誰でも多かれ少なかれ、膝や腰、肩など身体のあちこちが痛むようになってくるため、胸も少しくらいの痛みでは、のちのち命に関わる病気が潜んでいるとまでは思わないものです。

少し強めの動作をすると痛み、休息するとおさまるという段階なら、まだ軽症といえます。動作をセーブすると確かに痛みは起こらなくなりますが、心臓の弱りは無症状の間も、少しずつ進行しています。そのため重症化するまで気づきにくい危険があるのです。

「あれ?」と思ったらすぐに医療機関に相談を

例えば通勤時や、長時間の庭仕事をしていて胸痛が起こったとき、おかしいと思ってすぐ受診すればいいのですが、休んで痛みがおさまると、「当面は無理しないほうがいい」と、だましだまし動くようになります。
そうしているうちに「これ以上動くと痛みが出る」という自分なりの”危険ライン”がわかってきます。その手前で休めば、胸痛が出ずにすむので都合がいい、というわけです。

確かに症状は出にくくなりますし、本人も「自分の身体とうまくつきあっているから、病院に行かなくても大丈夫」と思ってしまうかもしれません。

胸痛は見過ごされやすい

高齢者で体力がない人の中には、そもそも症状が出る前に疲れてしまうため、心臓の弱りに気づかない、という人も少なくありません。

また、糖尿病を合併していると、糖尿病による神経障害のために痛みを感じにくく、発見されにくいので注意が必要です。

仕事が忙しく、受診のために休みをとることもままならない人は、胸痛があっても我慢をしてしまうことが多いように思います。痛むことに慣れてしまい、「また、いつものか」とやりすごしているうちに、だんだん痛みの起こる頻度が高くなる恐れがあります。心臓の弱りも進んでいってしまうのです。

そうすると、無理をしているつもりがないときでも、胸痛が出るようになります。これは当然のことで、膝でも腰でも弱っているとちょっとした負荷で痛みが出るようになるのと同じです。少し動いただけ、あるいは安静にしているにもかかわらず、胸痛が出るようになってしまうとレッドカード。突然死につながる大きな発作を起こす可能性がとても高くなってしまいます。

なお胸痛ではないですが、みぞおちに痛みがあったため「胃が悪いのでは」と思い、消化器内科を受診し、胃カメラの検査をうけた後に胸が苦しくなって循環器内科を受診され、心筋梗塞と診断された方もいます。症状が典型的でないことにより、医師でも診断に難渋してしまうことがあります。そんなときに心臓CTを撮れば、ほぼ100%の診断ができます。