コラム

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2017年9月10日 メタボリックシンドロームと動脈硬化の関係

こちらのコラムで、動脈硬化は血管の内皮細胞になんらかの原因で傷がつくことから始まると話しました。
原因にはいろいろありますが、もっとも大きいとされているのが高血圧や高血糖、コレステロールの異常をはじめとする生活習慣病です。

例えば、血圧が高いと、血管壁には強い圧がかかるために傷みやすくなりますし、高血糖の場合は血液中の糖が血管壁に付着することで化学反応が起こり、活性酸素が発生して血管壁を傷つけるといわれています。

こうした生活習慣病は、別々の原因で発症するものばかりではなく、肥満が長く続くことで発症したり進行したりしやすくなることがわかっています。

肥満は、脂肪が蓄積する場所により、皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満の2タイプに分けられます。
生活習慣病の要因となるのは後者の内臓脂肪型肥満。お腹まわりがでっぷりしている体型に多いタイプです。

内臓脂肪型肥満と、血清脂質・血圧・血糖のうち2つ以上が基準値を超えている状態を「メタボリックシンドローム」といいます。

メタボリックシンドロームとは

メタボリックシンドロームは、みなさんにとっては「メタボ」という略称のほうがなじみ深いのではないかと思います。
メタボ=肥満、と捉えている人が多いかもしれませんが、そうではありません。
本来、メタボリックとは英語で「代謝」を意味する言葉です。

代謝とは、簡単に説明すると、食事から摂った糖や脂肪などの栄養素が分解、吸収され、生命活動に必要なエネルギーに変わり消費されたり蓄えられたりすることです。
身体にもともと備わっているメカニズムですが、メタボリックシンドロームになると、この一連の流れに異常が起こってしまうのです。
その背景に、内臓脂肪型肥満があるというわけです。
内臓脂肪も皮下脂肪も同じ脂肪ではないのか、どうして内臓脂肪型肥満がよくないのか、と疑問に思われる人もいるでしょう。
実は一口に脂肪といっても、付着する場所によってその性質が違うのです。
内臓脂肪も悪者ですが、さらに悪い脂肪として「脂肪肝」など臓器に蓄積する「第三の脂肪」が問題になり、心臓のCTをとることで「心臓周囲脂肪」も評価できるようになり、注目を集めています。
実際に、医師も心臓の手術現場で油まみれの心臓を見て驚かれることもよくあるそうです。

内臓脂肪の細胞からは、実はアディポサイトカインと呼ばれるさまざまな生理活性物質が分泌されます。
この物質にはよい働きをするものと悪さをするものがあるのですが、内臓脂肪が増え過ぎなければ、よい働きをする生理活性物質が活発に働きます。
ところが内臓脂肪が増えすぎると、悪さをする生理活性物質が増え、よい働きをする生理活性物質の分泌は減ってしまったり活性が鈍くなったりするのです。
悪さをする生理活性物質は、高血圧や高血糖、脂質異常を引き起こしたり、進めたりするよう働きます。
それが「代謝異常=メタボリックシンドローム」と呼ばれる状態をつくってしまうのです。
これが動脈硬化を進め、心臓病の引き金となってしまうというわけです。
下の図のように、メタボリックシンドロームによる高血圧や高血糖といった危険因子の数が多くなればなるほど、心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症リスクが高くなります。

メタボリックシンドロームのこわいところは、自覚症状がほとんどないまま進行していくことです。
しかも、「血糖値がほんの少し高い」「血圧がちょっと高い」ものの、病気と診断されるまでには至っていない、いわゆる「予備軍」であっても、動脈硬化を進めてしまうことです。
「太り気味で、少し血圧や血糖値が気になるけれど、どこも具合は悪くない」とそのままにしていた結果、ある日突然胸痛を訴えて倒れた、というケースも珍しくないのです。

動脈硬化を予防するアディポネクチン

このコラムをご覧になっている人の中には、すでに血圧やコレステロール値が高めで薬を服用している人がいるかもしれません。
薬を飲んでいれば値は下がりますので、一見、動脈硬化の心配もなさそうに思えます。
ところが実は、内臓脂肪そのものも、直接血管に悪さをして、動脈硬化を進めてしまうことがわかってきており、油断はできません。心臓を栄養する冠動脈は、心臓周囲脂肪に埋もれています。悪さをしないわけはありませんよね。

先ほど挙げたアディポサイトカインの中には、血管において傷を修復する作用をもっているものがあります。

これをアディポネクチンといい、タンパク質の一種です。
アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されますが、標準的な体型の人であれば、血液中に十分にあり、血流に乗って体内をめぐりながら、血管の傷ついた箇所を修復していきます。
血管は、健康な人でも血圧や血糖の変動などで少しずつ傷つくものですが、アディポネクチンは、そこから特に動脈硬化などの病気を予防してくれます。

ところが、内臓脂肪型肥満になると、アディポネクチンの分泌が抑えられてしまうのです。
そうすると血管についた傷が速やかに修復されないので、動脈硬化のもとになってしまうというわけです。