コラム

2019年11月25日 The 研究会 Up to Date ~PART1 高尿酸血症と痛風について(後編)~

高尿酸血症と痛風に関するご講演の第2回目です。聖路加国際病院 循環器内科の桑原先生のご講演内容を簡単にまとめました。

 

アルプリノールを内服すると心血管疾患が予防できるか? 

NEJMに掲載されたCARES trialにおいて、フェブキソスタットがアロプリノールと比較し心血管有害事象の発生が非劣性であることが示された。しかしながら、2次エンドポイントである総死亡、心血管死のリスクは、フェブキソスタットで有意に高かった。本研究は、痛風を合併し心血管疾患に対して高リスクの6,190例を対象とした、フェブキソスタット群とアロプリノール群のランダム化比較試験である。しかしながら、本試験のlimitationとして、両群とも途中脱落例が50%と、非常に多いことが挙げられている。さらに薬剤内服中止症例(内服薬の中止が85%)で、心血管疾患発症のリスクが内服継続群と比較し、76倍高かった。薬の種類によらず薬を止める行為が、心血管イベントの引き金となる可能性も否定できず、注意が必要である。

 

一方、Circulationにて報告された米国のMedicareのデータを用いた研究では、アロプリノールとフェブキソスタットの両群で総死亡に有意差はなく、心不全による入院はフェブキソスタット群で有意に少なかったという結果であった。

 

高尿酸血症の早期治療が予後を改善するかどうかの科学的根拠は出ていない

しかしながら、痛風を発症すると心血管疾患のリスクは1.5倍から2倍になる。

「痛風予防が心血管疾患予防にもつながり、重要である」ともいえる。

 

 

日常の食事内容,個別の食品に配慮した食事指導の有用性が示されています。

 

高尿酸血症の予防・治療には、食事を含めた生活習慣の改善が第一。それでも高尿酸血症が継続する場合は薬物療法を選択。

  1. 高プリン体の制限
    具体的には、アルコール、フルクトース、総カロリー制限が重要である。

  2. 十分な水分摂取と、アルカリ性食品を多くとる
    1日2Lの水分を摂り、ビタミンCを多く含んだ野菜を摂るのも良いでしょう。果物は糖質を多く含んでいるが、多くの繊維質を含んでいるため、控える必要はないと考えられる。一方で、ジュースは控えることが望ましい。

  3. 細胞ひとつにひとつの核酸がある。
    1
    つの細胞に、1つの核があり、核を構成する核酸はプリン体でできている。よって、細胞数が多いとプリン体が多いことを示している。白子、レバーはプリン体が多い事は良く知られているが、実は細胞がたくさんあるものである。大きな魚も小さい魚も細胞数はそこまで変わらないと言われているよって、イワシなど小魚の乾物は、単位量当たりのプリン体が多くなるので、高尿酸血症を持つ患者さんは食べすぎには注意した方が良いであろう。

  4. ラーメンを食べる時は、麺に留めて、スープはあまり飲まないようにしましょう。
    プリン体は水に溶けやすい。魚の乾物を出しで使っているようなラーメンのスープには、たーーーーっぷりのプリン体があるのです。

  5. 脱水を予防
    脱水状態を見分けるのに、舌で真ん中に線が入っているかを見るのが有用である。

 

日々の疑問、難問Q&A

Q 痛風発作が起きたときの対処法は?

 尿酸結晶が関節から剥がれ落ちる時に起こる現象が痛風発作である。血清尿酸値が変化すると、尿酸血症が剥がれやすくなるので注意が必要である。

  1. 痛風がある人は関節に過重をかけすぎない
  2. 発作が起きている時は、飲んでいる尿酸降下薬は継続したまま、痛み止めを処方
    血清尿酸値は一定に保ったほうが、尿酸結晶が剥がれ落ちにくく、新たな発作が生じにくい。よって、痛風発作が認められている間は、服用中の尿酸降下薬の種類や分量は変えないことが重要である。
  3. 血清尿酸値は一定にさせて、痛みを抑える目的でNSAID、コルヒチン、ステロイドなどを処方する。
  4. 急激な温度変化を避ける
    温度変化によっても尿酸の溶解度が変わるため、尿酸結晶が剥がれ落ちやすくなる

 

Q 男性患者と女性患者を同等に扱ってよいのか?

 女性ホルモン、特にエストロゲンには血清尿酸値を下げる作用がある。閉経後の女性は血清尿酸値が上がりやすく、高尿酸血症の有病率が上がる。女性の場合、血清尿酸値の目標値は、男性よ り1-1.5mg/dL低い方が、痛風以外の疾患発症予防には良いかもしれない。

 

Q 利尿薬飲んでいると、尿酸値も高くなる?

 利尿薬やβ遮断薬は痛風のリスクになることが知られている。特に利尿薬は、血清尿酸値を上げるので注意が必要です。高血圧患者においては、血清尿酸値が低すぎると心血管イベントが増加したというデータもある。一方で、低尿酸血症(血清尿酸値2mg/dL以下)が運動誘発性の急性腎障害のリスクにはなるものの、他の疾患リスクとはならないとの報告もある。以上より、血清尿酸値は2以下にはならないように気を付けつつ、しっかりと下げることが良いと考えられる。

 

Q 痛風発作をおこしているのに、血清尿酸値があまり高くない患者さんがいるのはどうして?

 血清尿酸値は2-4日で代謝されるため、前日ビールを飲む人は血清尿酸値は上がったままだが、数日摂生すると血清尿酸値は下がる。痛風発作が生じた瞬間は血清尿酸値が高いことが多いが、外来に来た痛風患者さんでは、血清尿酸値が高いとは限らない。痛風発作は高尿酸血症が持続して関節内に尿酸結晶がつくられ、それが剥がれ落ちる現象であるため、関節内の尿酸結晶が剥がれ落ちる現象は、血清尿酸値が下がっている時でも生じうる。よって、血清尿酸値は経時的に観察した方が良い。痛風発作が生じた時の値だけで判断するのはよくないと考えられる。

 

 また、今回改定されたGL内で、特に注意すべき点は、CQ2と3である。腎機能低下を抑制する目的での尿酸降下薬の使用を条件付きで推奨している(欧米のGLでは推奨されていない)。一方、心血管発症リスクの軽減を目的とした尿酸降下薬の使用は、エビデンスが十分でなく、現時点では条件付きで推奨されない。ただし、降圧薬使用中の高血圧患者では痛風や腎障害を合併しやすく、痛風や腎障害の抑制を目的に尿酸降下薬を使用することについては理にかなっている。と考えられる。

 

 

 

皆さま、どうでしたでしょうか?

2回にわたってお届けした、『高尿酸血症と痛風』。毎日の日常臨床の外来で、尿酸値の検査データや患者さんの症状、そして内服薬に関して、しばしば戸惑ったりすることがあるかと思います。今回のブログがそんな皆さま方のお役に少しでも立っていただけると嬉しいです。

マイケルゆみこ