コラム

2019年11月25日 THE講演会 Up to Date ~PART2 高血圧と腎臓病を知って、心血管イベントを抑制しよう~【講演会】

Introduction

現在、本邦において高血圧の患者数は4300万人とも言われている。医療界における内服薬の凄まじい進化は言うまでもないが、実はその恩恵を受けている患者さんは少ない。

内服治療を受けている患者は、氷山の一角にすぎず、実は未治療の高血圧患者が潜在的に存在しているのである。

この未治療の患者を治すことが、高血圧から引き起こされる心血管疾患やCKD(慢性腎臓病)など様々な合併症予防、ひいては生命予後の改善に繋がるからである。

 

 

高血圧を予防する第一対策は減塩

高血圧を予防するには第一に塩分摂取を減らすこと。減塩により、高血圧に関する脳卒中や心血管イベントによる死亡者数が減少するのは明らかである。

 

血圧コントロールの流儀

あるデータによると、血圧:120/80mmHgを超えると、心血管イベントが発症しやすい。

このデータを見ると、収縮期血圧を120mmHg未満でコントロールする事で患者予後の改善につながると解釈できるが、本当にこの血圧値で管理することが妥当なのであろうか?

実は、これには科学的根拠は何ひとつない。

2010年に発表された、糖尿病合併高血圧患者における予後を検証したACCORDBP試験では、血圧:120mmHg未満を目指した厳格降圧群において、一次エンドポイント(非致死性心筋梗塞、非致死脳卒中、心血管病による死亡)に有意差はなかった。さらにその後、いくつかのメタ解析においても、血圧:130mmHg未満を目標とした研究結果で同様に、厳格降圧による臨床意義は見出せなかった。

しかし、本邦においては少々欧米とは異なる研究結果もある。日本人は欧米と比較し脳卒中による死亡数が多い。この脳卒中に着目して検討すると、厳格降圧(血圧:120mmHg未満)を目標にコントロールしたほうが、脳卒中による死亡が有意に減少した。一方、心血管疾患による死亡に有意差はなかった。また、糖尿病合併高血圧に関しては、血圧130/80mmHg未満とすることの妥当性も報告されている。

以上により、日本における血圧の管理目標値は130/80mmHg未満と定義されるようになった。

一方、糖尿病を合併していない高血圧患者を対象にした試験、SPRINTjパイロット試験では、ACCORDBP試験とは真逆の結果であった。つまり、収縮期血圧:120mmHg未満に血圧をコントロールする事で、脳卒中、心筋梗塞、心血管死亡、総死亡を有意に減少させたのである。また、eGFR30を下回る群では、厳格降圧群で腎障害が増加し、AKI(急性腎機能障害)が増えている。これは、降圧によって脱水を引き起こす懸念があると指摘している。

これらの研究結果を踏まえ、導き出された結果が、血圧管理目標値:130/80mmHg未満である。

しかし、130/80mmHg未満の降圧目標であっても、少なからずリスクは存在する。このポイントと言えるのが、蛋白尿があるかないか?である。蛋白尿がないCKDは厳格降圧を行う十分なエビデンスがない。蛋白尿()でeGFRが低下している場合は、管理目標を収縮期血圧:140mmHgにしても良いだろうと考えられている。

 

CKDにおいて最も留意すべきは、蛋白尿があるか否かである!

高血圧型の尿蛋白の存在は、慢性腎不全に移行するリスクが高い。よって、蛋白尿が存在した時点で、厳格な血圧コントロールを行なう事がbetterである。

また、尿中にアルブミンや蛋白が漏れると、心血管死亡が増加すると言われている。アルブミン尿には安全息はないので、アルブミン尿の存在は種々の合併症の危険性や患者予後が不良であるひとつの目安にもなる。また、アルブミン尿が検出されると認知症や心血管イベントが増加するというデータも散見されている。

 

降圧薬の選択方法

  • 糖尿病を合併した高血圧患者における第一選択薬はARB、ACEいずれかを推奨する。
  • 糖尿病を合併したCKD(蛋白尿あり)での降圧柳雄方の第一選択薬はRA系阻害薬を推奨する。
  • 糖尿病非合併CKD(蛋白尿なし)での降圧療法では通常の第一選択薬(RA系阻害薬、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬)のいずれかを選択する。
    
    
    

  主要降圧薬の積極的適応

 
Ca拮抗薬
ARB/ACE阻害薬
サイアザイド系利尿薬
β遮断薬
左室肥大
 
 
LVEFの低下した心不全
 
1
1
頻脈
(非ジビドロピリジン系)
 
 
狭心症
 
 
2
心筋梗塞後
 
 
蛋白尿/微量アルブミン用を有するCKD
 
 
 

 

※1少量から開始し、注意深く漸増する。 ※2冠攣縮には慎重投与 薬剤による降圧管理中、収縮期血圧:120mmHg未満になった場合は有害事象の発現に注意を払わねばならない。特に高齢者の場合、130/80mmHg未満に降圧した場合は、過降圧となる可能性があるため注意を要する。  

 

CKDを合併すると、何が? どうして?危険なのか。

50歳男性がCKDを合併すると、

健康寿命は CKD(1-3期):4.7歳健康寿命が短縮。糖尿病:8.6歳短縮。糖尿病+CKD:11.5歳 短縮。すると言われている。

実はこのCKDの合併は、糖尿病合併や喫煙より心血管死亡に影響するという厚生労働省の前向き研究がある。

いかにCKDを予防しCKD患者さんを良好にコントロールするかが、患者の生命予後の改善につながると考えられる。      

 

CKD診療のポイント

□     早期発見:検尿、血清クレアチニン検査(eGFR計算)

□     糖尿病、高血圧、メタボ、肥満等の生活習慣病が高リスク

□     生活習慣適正化(体重、血圧、血糖/脂質管理、禁煙)が重要

□     かかりつけ医と専門医の連携が有効

□     専門医への紹介   ①血尿陽性+蛋白尿陽性、②蛋白尿(+~2+)、③eGFR6040歳未満)、eGFR4540歳以上)

 

血圧の目標値といっても、自宅測定血圧がいいのか?自宅だったら平均値?それとも、外来診察時の血圧?何を参照すべきか悩むことが多いが、エビデンスベースでは、「外来診察時の血圧を参考に血圧をコントロールすべきである。」と述べらえている。