コラム

2019年10月8日 THE 研究会 Up-To-Date PART1 ~高尿酸血症・痛風治療の考え方~

2019年9月16日 講演会

 

高尿酸血症・痛風の治療の考え方

~ガイドライン改定の内容も踏まえて

演者:虎の門病院 

集中治療科・循環器センター内科・高齢者総合診療部 

医長 桑原 政成 先生

 

桑原先生は大学時代、サッカー部でキーパーを務めてらっしゃったという、何とも頼もしい先生。本業は循環器内科学だそうですが、尿酸は趣味で知識を深められたそうです。

近年、血清尿酸値の上昇は、痛風だけではなく、脳・心血管疾患や腎障害にも影響を及ぼすとの報告が増えています。高尿酸血症・痛風の治療がより適切に行われることを目的に、201812月末に、『2019年版高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(GL) 第3版』が出版されました。

 

本ガイドラインは『7つのクリニカルクエスチョンと推奨』と『高尿酸血症・痛風の診療マニュアル』から構成されています。診療の場において意見が分かれる、あるいは判断に迷う時に利用できる部分が『クリニカルクエスチョンと推奨』です。本GLは診療上重要度の高い7つのクリニカルクエスチョン(CQ)と、それに対するエビデンスならびに推奨度が示されています。日本医療機能評価機構からの指示により、網羅的文献検索を用い、医療行為による「benefit」と「risk」をメタ解析で評価し、「エビデンスの強さ」を決めバランスを評価します。さらに「患者の価値観や希望」、「医療コストや資源」という医療経済を評価して「推奨」をガイドライン作成委員の投票により決定しています。

 

無症候性の高尿酸血症単独でも、5年後の高血圧、肥満、糖尿病、慢性腎臓病、脂質異常症を発症するリスクとなりうる

「肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病の因子を持たず、痛風の既往なく、高尿酸血症薬を内服していない無症候の患者が各疾患のリスクになるのか?」について、2004年から2009年に聖路加国際病院を受診した約13,000人の健診受診者を対象として、5年間のコホート研究を実施した。その結果、

  • 男女とも、高尿酸血症群で有意に高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病罹患率が上昇
  • 女性では糖尿病罹患率が有意に上昇
  • 男性では肥満が有意に増加
  • 多変量解析で、高尿酸血症が、高血圧と脂質異常症新規発症の独立した危険因子となった

これらの結果から、高尿酸血症は無症候であっても、高血圧、脂質異常症の新規発症リスクとなり得るため、放置すべきではないと考えられる。

 

血清尿酸値と高血圧の有病率の関係

血清尿酸値が上がれば、高血圧の有病率が高くなるという臨床データも出ている。

  • 男性では、血清尿酸値が1上がると高血圧の有病率が18%増加。
  • 女性では、血清尿酸値が1上がると高血圧の有病率が25%増加。

つまり、血清尿酸値が高いと高血圧症を発症するリスクが20%増加する、と考えられる。

 

アロプリノールには血圧下げる効果がある(JAMA)

アロプリノール内服群とプラセボとの比較にて、アロプリノール内服群において有意な血圧低下を認めた。その機序としては、アロプリノールは血清レニンを介して全身の欠陥抵抗を低下させることにより、血圧が上がるのを防ぐ効果があると考えられている。一点注意すべき点は、添付文書上、アロプリノールは痛風、もしくは高尿酸血症を伴う高血圧症の患者にしか使用できない。

また、前高血圧と肥満をもつ青年を対象に、プラセボ、アロプリノール(尿酸産生抑制薬)、プロベネシド(尿酸排泄促進薬)の3群で比較したところ、プロベネシドでも有意に血圧を下げることが分かった。以上から、血清尿酸値を下げること自体が血圧を下げることにつながると示唆される。

また、高齢者において、アロプリノール内服で血圧が下がったという後ろ向き観察の結果も存在している。

 

血清尿酸値が上がるほど高血圧になる患者が多い。高尿酸血症が、前高血圧(血圧が120~139/80~89mmHg)から高血圧に進展するリスクとなる。

 

尿酸値と腎機能の関係

UPWARD studyにて、トピロキソスタットは有意に血清尿酸値を下げた。またセカンダリーアウトカムではあるが、トピロキソスタットは28週間でeGFRの低下を抑制させていた。

 

興味深い研究結果であったのが、FEATHER study である。これは、「CKD stage3の無症候性高尿酸血症患者を対象にフェブキソスタットは腎機能低下を抑制することが出来るか?」という問いに対する答えを出すために、フェブキソスタット内服群とプラセボ内服群で、無作為化比較を行った試験である。結果は、フェブキソスタット群は血清尿酸値を有意に下げ、2年間でeGFRはほぼ変わらなかった一方、プラセボ群ではeGFRのわずかな低下が認められていたが、両群において、eGFRの変化に有意差は認めなかった。つまり、primaryアウトカムはnegativeであった。しかし、ここで着目すべきは、プラセボ群でもeGFR2年で1ml/min/1.73m2しか下がってないことである。この結果は、本研究における腎臓内科医師の内服コントロールが非常に優れていたことを示しており、フェブキソスタット内服群とのeGFR値の変化に有意差を認めなかった要因とも考えられる。

 

血清尿酸値が上がることが腎機能低下のリスクになるのでは?

一方でこんな研究結果もあります。

血清尿酸値のベースライン高値が腎機能低下に関係することは知られていますが、経過中の血清尿酸値の上昇も、腎機能低下に強く影響を及ぼすという内容です。5年間で血清尿酸値が1mg/dL上がると、腎機能低下が3.8倍ものリスクで生じていたことから、経年的な血清尿酸値の上昇が腎機能障害のリスク因子になると考えられます。具体的には、ベースラインの尿酸値が、男性:6.3mg/dL、女性:5.1mg/dL以上で腎機能障害のリスクとなりえます。女性の方が、血清尿酸値1㎎/dL上昇あたりの、腎機能障害への影響が強い傾向が認められていました。

 

 

後編へつづく