コラム

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2017年9月14日 気づきにくい「無呼吸」の弊害

十数年前、新幹線の運転手が居眠り運転をし、あわや大事故にというニュースがありました。
後にこの運転手は「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」を患っていたことがわかり、この事件がこの疾患が社会の関心を集めるきっかけとなりました。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは、名称が示す通り、寝ている間に呼吸がしばしば止まってしまうために心身にさまざまな悪影響が及ぶ疾患です。目安として、10秒以上の呼吸の停止が一晩のうちに何度もあらわれると、この疾患が強く疑われます。呼吸が止まると、身体に必要な酸素が届かないことに加え、脳が酸素不足の危機を察知し覚醒してしまいます。十分な睡眠時間をとっていても、ぐっすり眠れていないのです。そのため、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんは昼間に強い眠気があり、だるい、すぐ疲れるなど、日中の活動量や質も低下しがちです。

なぜ呼吸が止まってしまうのでしょうか。実はここにも、このコラム(No10.のコラムにリンクを貼っていただけますでしょうか)で説明した「メタボ」が関与しています。

呼吸をしているとき、私たちが吸った空気はのどから肺まで達する気管を通っていきます。気管は直径1.5~2センチほどの管で、飲食物が通る食道の前側にあります。首にはほかに、頸椎(けいつい:首の骨)や頸動脈といった生命維持に大事な組織も通っています。

これらの周囲を首の筋肉や脂肪がとりまき、守っている格好になっていますが、太りすぎると逆に、気道を圧迫する要因になります。起きているときには問題がなくても、横になると分厚い脂肪が気道にのしかかり、狭めてしまうのです。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群はやせていても、あごが小さい人や扁桃肥大の人などは、のどが圧迫されやすいため起こることがありますが、ほとんどは肥満体型、つまりメタボの人に見られます。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群でこわいのは、昼間の眠気だけではありません。実は心臓病のリスク要因であることもよく知られています。

ご存じの通り、呼吸で取り込まれた酸素を全身に運ぶのは血液です。寝ている間に呼吸が止まり酸素不足に陥ると、脳が血管に対し、血液を迅速にめぐらせ身体が酸素不足にならないよう命令を送ります。このため血管の収縮が大きくなり、血圧が高くなるのです。

つまり閉塞性睡眠時無呼吸症候群は高血圧の要因となり、血管のみならずポンプ機能を担っている心臓にも負担をかけてしまうのです。
以前、心筋梗塞の患者さんが入院してきたとき、夜中に血中の酸素飽和度が少ないと問題になったことがあるのですが、その原因は閉塞性睡眠時無呼吸症候群だったというケースがあります。つまり直接的原因は「心臓」ではなく「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」にあったということです。心筋梗塞は夜中に起こることが多いことからも、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が引き金の一つになっていると考えられます。ほとんどの高血圧には原因がないのですが、例外として閉塞性睡眠時無呼吸症候群は高血圧の原因とされています。
高血圧の人は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状を抱えている場合も多いので、高血圧の人は家族等に聞いて確認するようにしましょう。

一日の4分の1~3分の1は睡眠にあてられます。本来なら心身を休めるための時間なのに、閉塞性睡眠時無呼吸症候群になると無自覚のまま心臓を傷めつけていることになってしまいます。閉塞性睡眠時無呼吸症候群がある人はない人に比べ、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)を発症するリスクが約3倍にもなるという研究報告もあります。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群を放置したまま、メタボを改善し心臓病のリスクを下げるのは難しいと考えられます。メタボ改善には食事とともに運動も必要ですが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群があると昼間の眠気や疲労感が強いため、十分な運動がしにくいからです。運動はしなければならない、でも昼間に眠かったり疲れやすかったりしてなかなか運動できない、そうするとメタボはいつまでたっても改善しない、そのため心臓病のリスクは下がらず、運動不足のためますますメタボになりやすい……という悪循環に陥ってしまいがちなのです。

なお、閉塞性睡眠時無呼吸症候群では「いびき」に特徴が見られます。「かっ……ごおおおお!」というような、静かになったと思うと突然音が大きくなるパターンを繰り返したり、寝入りばなだけでなく、朝までずっとこうしたいびきをかいていたりすると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が強く疑われます。端的にいうと、「尋常ではないいびき」なのです。自分ではわからないので、家族が気づいて受診を促す、というパターンが多々あります。周囲の指摘がなくても、日中、とても眠くてやる気が起こらない、注意散漫になる、疲れやすくて仕事や日常生活に支障が出ていると感じたら、一度循環器科を受診しましょう。

当院では初診時、肥満体型や高血圧の人には閉塞性睡眠時無呼吸症候群がないかを確認しています。問診のほか必要に応じて検査も行い、閉塞性睡眠時無呼吸症候群がある場合はその程度に応じ、治療も検討します。治療内容の詳細はここでは触れませんが、軽度であれば生活習慣の改善でやせることにより、早期の改善が見込める人もたくさんいます。
重症度が高いケースに対しては「CPAP」という、閉塞性睡眠時無呼吸症候群専用の酸素マスクを睡眠時に装着して、気道に酸素を送り込む治療があります。なお、CPAPをとおして閉塞性睡眠時無呼吸症候群を治すことで、日中のやる気が出て運動習慣が改善でき、CPAPに頼らずにすむようになったケースもあります。