コラム

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2018年1月2日 心臓病とストレスの関係⑤大統領は寿命が短い?

ストレスによって心臓病が増えるという事実があるのは、疑いないところです。ところが、誰しもが同じストレス環境の下で、同じ時期に心臓病になるわけではないというのもまた真実です。ストレスとされる事態をどう捉えるかについては、人によって違いますが、「心臓病とストレスの関係③ストレスを捉える3つの観点」でお示しした①個人の資質 ②環境、に関係して「社会階層構造(social hierarchy)」や社会的な地位(ステータス)が健康や病気に関係しているという仮説があります。イギリスの疫学と公衆衛生学者・マーモットは「自律性(autonomy)」と「社会参加(social participation)」の点から健康や病気について考えます。社会階層が高いほど、自律的で社会参加の機会が多いもの。そのため病気になりにくく、健康だと考えるのです。

「自律性」とは、自分の人生をどれだけコントロールしているか、ということであり、「社会参加」とは、社会的活動に参加できる機会をどの程度持っているか、ということです。自分の人生をコントロールできるのは社会的な立場にいる人だと考えられ、そうでない人よりも健康さが優ると考えられます。いやいや仕事をするよりも責任と裁量をもって仕事ができるほうが良いと言えるでしょうか。

マーモットはイギリスでの研究で上述の知見を得ましたが、こうした社会階層と健康については、階級社会ではないとされるアメリカ合衆国や日本でも上述とおおむね同様の結果が示唆されています。例えば、日本の研究では、所得や雇用形態、職種によって健康度が変わってきたりしています。所得が高い方が、非正規雇用よりも正職員の方が、そして事務職よりも管理職の方が健康だとされ、実際に健康状態などに差が認められます。その理由として、所得が少ないと受診を控えがちであったり、職業階層が低いと仕事のストレスが大きかったり、友人との交流が少なかったり、といったことが関係していると考えられています。また、身近な周囲との比較において劣等感を覚えていると不健康になるという仮説もあります。
「類は友を呼ぶ」と言いますが、私たちは属しているグループにふさわしいように変わっていくのかもしれませんし、社会階層の高さは、ある程度安定して勉強などを継続的に続けることができ、ある程度の結果や成果を残すことができるくらいの社会性のあることの裏返しで、そうした社会性が日頃の生活習慣に生かされているのかもしれません。

一方で、大統領などの重職につくことが寿命を縮めるという研究もあります。権限があまりに大きいことがストレスになるのかもしれません。「過ぎたるはなお及ばざるが如し」なのでしょうか。ただ、この研究では、エミー賞を受賞した人は受賞を逃した人よりも寿命が長く、上述の通り、ステータスが健康にプラスの影響を与えていることもまた示唆しています。

ここまで、「ストレスとは何か」について考えてきました。次回からは、ストレスとの付き合い方について考えていきたいと思います。