コラム

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2018年2月1日 虚血性心疾患以外の心疾患―弁膜症、心筋炎、心膜炎

心臓突然死の原因の多くを占めるのが、虚血性心疾患ですが、虚血性心疾患以外にも、命を脅かす心臓病はあります。代表的なものについて解説します。

弁膜症

「突然死の主要因「虚血性心疾患」」で触れたとおり、血液は心臓内の4つの部屋を、一方通行で流れています。そして、血液の逆流を防ぐため、心臓には僧帽弁(そうぼうべん)、大動脈弁、三尖弁(さんせんべん)、肺動脈弁の4つの弁があります。これらの弁の働きが悪いと、スムーズに血液が流れていかず、心臓の活動にさまざまな支障が出ます。これにより生じる疾患を「心臓弁膜症」といいます。

原因は、加齢により弁が硬くなる場合や、肥満、高血圧などの生活習慣病が関係していると考えられるケース、心筋梗塞や心不全によって心臓に負担がかかったために生じる場合が多いです。若い人の弁膜症では、先天的に弁の形や機能に異常がある場合もあります。

弁膜症には大きく「閉鎖不全症」と「狭窄症」の2種類があります。前者は弁がきちんと閉まらないために血液が逆流したり漏れ出たりする状態です。後者は逆に、弁が開くべきときにきちんと開かないために血液がスムーズに流れない状態です。4つの弁のいずれにも閉鎖不全症や狭窄症は起こりえますが、治療が必要となるのはおもに左心室側の、僧帽弁と大動脈弁の弁膜症です。心臓の左心室側の機能が悪くなると、その手前にある肺にも負担がかかりやすく、重い症状が出やすいからです。

 

僧帽弁と大動脈弁の弁膜症

僧帽弁と大動脈弁の弁膜症には、僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、大動脈閉鎖不全症、大動脈狭窄症があります。

図表19 心臓内の血液の流れ

弁膜症は多くの場合、ゆっくりと進行します。軽症のうちはすぐ命に関わることはないものの、進行の速さには個人差があり、重篤化すると心不全を起こすリスクが高くなります。また、進行した場合には薬物療法の効果が乏しく、手術を行うかどうかは弁の状態ではなく心臓にどれだけ負担がかかっているかで判断します。超音波検査は診断能力に優れており、弁膜症と診断された場合には一年に1回は検査を行うことをおすすめします。弁膜症は、以前は開胸による手術しか治療法がありませんでしたが、最近は日本でもカテーテルによる治療(TAVI手術)が行えるようになりました。

心筋炎

心筋炎は、名前の通り心筋がなんらかの原因で炎症を起こす病気です。このために心不全に至ったり、拍動が不安定になったりして命を脅かすことがあります。

 特に、心筋にウイルスが感染して起こる「急性心筋炎」は、突然死に多い原因の一つです。風邪をきっかけに、数日後から胸痛や不整脈があらわれ、心不全やショックなどの重い症状へ続くのが典型的なパターンです。しかし、ほとんど前兆がなく、風邪の症状から突然心不全や致死的な不整脈を起こすケースも見られます。動悸や息切れなどの呼吸苦が酷くなった場合には心筋炎の可能性が否定できませんので、病気を軽く考えずに病院を受診することが大切です。

 

心膜炎

一方、心膜炎は「心膜」と呼ばれる、心臓を包んでいる膜が炎症を起こす病気です。心膜は二重に心臓を包んでいますが、その構造は袋状になっており、中に少量のリンパ液が入っています。これが、不要物を運び出したり外から侵入する細菌やウイルスから組織を守ったりというリンパ液本来の役割のほか、心臓が収縮する際の摩擦を軽減するクッションの役割も果たしています。

ここが、ウイルスなどの感染により炎症を起こすと、リンパ液が過剰に増えて心臓を圧迫し、機能を低下させてしまいます。心筋炎と同じく、風邪などをきっかけにした急性心膜炎では、急に心臓の機能が悪くなり、命に関わる場合があります。

虚血性心疾患以外の心疾患として、弁膜症、心筋炎、心膜炎の3つをご紹介しました。 続いては、心室細動と心房細動をご紹介します。