コラム

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2017年12月2日 心筋への血流が途絶えさせ、心不全を引き起こす「心筋梗塞」

心筋梗塞は、冠動脈が完全に詰まってしまい、血流が途絶えることで発症します。詰まった先には、酸素や栄養が送られなくなるため、そのエリアの心筋の細胞は壊死してしまいます。ひとたび壊死してしまった細胞は、二度と再生しません。

同じ冠動脈でも、詰まった部分が枝分かれした先の比較的細い血管であれば、細胞が壊死してもその範囲が限定的なため、すぐ命に関わる恐れは低いといえます。しかし主要動脈がいきなり詰まると、心筋の細胞が広範囲で壊死してしまうため、心臓はその機能を失い、心臓停止=突然死につながります。主要動脈は、太いとはいえ直径約4ミリにすぎません。このわずかなスペースの詰まりが、命とりになるというわけです。

なお、冠動脈のうちもっとも閉塞を起こしやすいのは、左心室の心筋へ血液を送っている左前下行枝とされています。以下の図を参照してください。

プラークが崩れて血管が詰まるメカニズム

労作性狭心症とは

労作性狭心症は、「血管を狭め、詰まらせる動脈硬化のおそろしさ」で話した動脈硬化を背景として、身体に無理がかかるような動作をしたときや、急な寒さにさらされるなどの環境の変化、緊張や不安といったストレスなど、なんらかのきっかけがあって起こる狭心症です。

労作性狭心症はさらに、症状の出方によって、「安定型狭心症」と「不安定狭心症」に分けられます。

プラークが突然崩れ、血管を詰まらせる

「油断は禁物。心筋への血流不足で起こる「狭心症」」のコラムで、動脈硬化によってできた瘤(粥腫:じゅくしゅ=プラーク)が血管内を狭めているために、血流が悪くなると話しました。心筋梗塞ではその瘤が崩れてしまい、血栓と呼ばれる大きな血の塊ができて、血管内を完全にふさいでしまうのです。

普段の生活の中で、うっかり切り傷をつくって出血してしまったときのことを思い浮かべてみてください。
少し経つと、何もしなくても傷口に血の塊やかさぶたができます。これと同じように、血管が傷ついたときには止血しようと、血液や血液の一成分である血小板が集まってきて、ふたをしようとするのです。これがはがれると血栓となり、血管を詰まらせてしまうもとになるというわけです。

ここで気をつけたいのは、誰もが安定型狭心症→不安定狭心症→心筋梗塞の経緯をたどるとは限らない、ということです。一般的に、心筋梗塞を起こした人の約半数は、狭心症などの前触れ症状がなく、突然発症するといわれています。血管が徐々に詰まっていくのではなく、何かのきっかけでプラークが大崩れし、一気に詰まってしまうのです。プラークが崩れ、血管が詰まるメカニズムについては、下の図を参照してください。

このタイプこそ、今までの診療経験では 40~50 代の比較的若い、メタボの人に目立ちます。

プラークが崩れて血管が詰まるメカニズム

崩れやすいプラークとそうでないプラークがある

プラークができるメカニズムは「血管を狭め、詰まらせる動脈硬化のおそろしさ」でお話ししましたが、実は同じプラークでも、表面が比較的硬く崩れにくいタイプと、表面がやわらかく崩れやすいタイプがあります。崩れにくいタイプのプラークを内視鏡で観察すると、表面の内膜が白く見えます(白色内膜)。崩れやすいタイプでは、内膜が黄色く見えます(黄色内膜)。

白色内膜は、プラークの表面が線維化しており、硬めで厚みもあります。血管を狭めていても急に崩れる心配が少ないため、心筋梗塞のリスクも黄色内膜のタイプよりは低いといえます。安定型狭心症によく見られるタイプです。

一方、黄色内膜は薄く、中のプラークが透けて黄色っぽく見えます。このタイプは崩れやすく、したがって血栓もできやすいのが特徴です。リスクが高いのはメタボの人で、中でも痛みを伴わない心臓CTでの診断が有効です。心筋梗塞を起こすリスクも、白色内膜のタイプより高くなります。AさんとBさんの2人が、仮に動脈硬化による血管の狭まりが同程度であったとしても、Aさんは白色内膜、Bさんは黄色内膜だった場合、Bさんのほうがより心筋梗塞を起こしやすく、予防のための積極的な治療が望ましいということになります。

もし心筋梗塞になったら

心筋梗塞では心筋の細胞が壊死してしまうので、放置していれば時間とともに壊死する範囲が広がります。心臓のポンプ機能も低下し続け、心不全の状態になります。機能が完全に停止すれば死に至ります。

激しい胸痛が15分以上続く場合はすぐに救急車を呼びましょう。心筋梗塞の初期には「心室細動」という危険な不整脈が起こりやすくなっており、意識を失うこともあるので、自分の運転で病院へ行くのはたいへん危険です。